2017年7月21日金曜日

統合失調症に対する多剤併用療法は一部効果がある、うつに対するケタミンの効果、うつ病の温熱療法、精神科診療における週末効果

統合失調症の単剤治療に対する追加薬戦術の効果
Efficacy of 42 Pharmacologic Cotreatment Strategies Added to Antipsychotic Monotherapy in Schizophrenia
http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2627699
JAMA Psychiatry. 2017;74(7):675-684.
統合失調症のみならず、精神疾患に対する多剤併用療法には批判が多い。もう医者になって10数年経つが、僕が研修医のころには単剤療法はすでに疑問なく正しいものとされ、単剤で治療できることが優秀な精神科医の証明のように語られるばかりだった。
多剤併用療法は効果がないばかりか副作用ばかり増え、良いことは1つもない。非常に難治・重症例は仕方ないが、そうでない患者で多剤併用・大量両方になっていく医者は頭が悪い。という感覚が共有されていたように思う。現在でもその感覚は続いているが、少し薄れたような気もする。そもそもクロザピンを含むMARTAが多数のレセプターをターゲットにしているのが売りなのに、それが良くて多剤併用がダメなのはよく理屈がわからなかった。
ということで統合失調症に対する単剤療法に加えた付加療法をメタアナライシスした研究。抗精神病薬に抗精神病薬を加えるのではなく、抗精神病薬に他の薬剤を加えることでの効果をみている。結果としては42種類の付加療法のうち、14はコントロールをアウトパフォームしていた。(効果があった)
また、クロザピンに対して追加療法したもので効果が認められたものはなかった。
内容を見てみると多くが抗うつ薬であり、SNRIが一番にきている。総じて陽性症状に対する効果はエフェクトサイズが小さく、陰性症状に対する効果が大きいようだ。。。
抗精神病薬は統合失調症の治療薬としては当然大きな効果があるが、短期の入院では容易に寛解しない症例もあり、そう言った症例に対しての追加療法についての情報が求められていると思うが、今回の論文はそれに答えるものではなかった。慢性期に活動性が低い症例があるとSNRI等の追加を考えるのも良いかもしれない。
NMDA受容体の研究をやった身としてはD-serinやD-cycloserinなどが全く出てこないのは寂しい限りである。


ケタミンはうつ病に対する電気けいれん療法の麻酔としては、抗うつ効果の追加効果はない
Adjunctive ketamine in electroconvulsive therapy: updated systematic review and meta-analysis
Ketamine as the anaesthetic for electroconvulsive therapy: the KANECT randomised controlled trial
ケタミンはNMDA受容体拮抗薬であり、日本では麻薬に指定されている。かつてヨーロッパなどで流行した麻薬のフェンサイクリジンに似た作用をもつが、解離性の麻酔薬として使われる。小児には悪夢や幻覚といった副作用や依存性を発揮しにくいということで小児領域の麻酔で頻用される。
僕が研修医の時代からケタミンはうつに対して治療的に働くということが言われている。効果も抗うつ薬のように効き始めるまで数週間かかるということはなく、「急速に」効果があらわれるという。なので、ただ単に「ラリってる」だけで抗うつなのではないのではという説もあるが、一応薬物が切れたあとも一定期間抗うつ効果があるらしい。
アメリカでは「Ketamine infusion therapy」としてケタミンの注射を受けられる施設がある。
ケタミンはうつの治療薬としては、研究するにはそれほど難しいことがあるわけではなく、その後も確固たる抗うつ効果のエビデンスが出ないのは不思議に思っていたが、、、https://rollingpsychi.blogspot.com/2017/05/fdafaers.htmlでは、マスデータからのケタミンの抗うつ効果が示された論文を紹介した。
しかし、今回の上記2報は、ケタミンの抗うつ効果を一部否定するものである。
ケタミンは発作閾値に影響を与えないため、電気けいれん療法の麻酔薬として時折使用される。電気けいれん療法は難治性のうつ病への効果的な治療法である。
かつては、ケタミンは抗うつ効果もあるので、一般の麻酔ではけいれんを誘発しにくい患者さんには、すこし面倒でもケタミンで麻酔して電気けいれん療法をしたほうが良いのではないだろうかということで挑戦したりしていた。
しかし、上記2報では、電気けいれん療法におけるケタミン使用の追加的な抗うつ効果が否定されている。ということとはケタミン単体でもやっぱり抗うつ効果は無いのではないだろうか、、、と疑いたくなる。
最近は大麻を医療使用しようという動きが多く見られるが、やっぱり慎重になったほうが良いんじゃないかな?こういうのをみると、、、やっぱり厳密なデータを揃えるのがむずかしいし、一貫した結果が出ていないからね。。。


うつ病に対する全身温熱療法
Whole-Body Hyperthermia for the Treatment of Major Depressive Disorder
A Randomized Clinical Trial
http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2521478
うつ病に対する温熱療法については、これまでほとんど試みられていない。pubmedで「hyperthermia depression」で検索するとこの論文を含めて3本しか論文がひっかからなかったが、その3本全てにこの論文のlast authorであるCharles L. Raisonさんが関わっている。温熱療法、、、? 温泉に入ればよいのだろうか、、、
この研究では、体を温めるために「Heckel HT3000 WBH system」という機械を使う。どうも赤外線で暖める装置で中に入って使用するようだ。イメージとしては日サロの機械に近いのではないだろうか。論文本文にはsupplementに写真があると書いてあったがめんどくさくて見てはいない。sham(対象)としてオレンジの光を浴びせる群を作って比較する。一回だけ使用して、その後うつ病の治療をせずに6週間フォローアップする。方法としては、赤外線で温めて深部体温を38.5度にして、それが終わったらスイッチを切って60分のクールダウンになる。38.5度にするのに、だいたい19分くらい平均でかかって、明らかな副作用にShamと差はなかった。とのこと。
温熱療法の効果はテキメンでshamと比べてHAMDで4点くらい差がついており、しかも効果は使用すぐに発現しておりその後も6週間持続していた。。。
本当かよ?という結果。うつ病になったら温泉に入ればよいのだろうか、、、それも1回だけ、、、??? 掲載されているのは天下のJAMApsychiatryだぜ。
深部体温が38.5度というのはそれほど達成が難しいとは思えず、通常の41度程度の温泉やサウナで十分な時間温浴すれば達成できそうな気がしてしまう。しかも1回だけでいい。そもそも風邪とかで熱出したらどうなんだ、それもうつ病に効果あるのかとか疑問もでる。
うつ病になったらゆっくりお風呂に浸かろう。きっと30分位つかったら深部体温も38.5度くらいになるよ、、、
これからの研究としては風呂に浸かる人とシャワーだけの人でうつ病の有病率を比べてみたら良いのだろうか、、、


精神科医療における週末効果
http://bjp.rcpsych.org/content/209/4/334
Mental health services, suicide and 7-day working
医療において週末効果というのが時折指摘される。週末に入院した患者の死亡率が高いというものであり、これまでの研究では有意差をもって指摘されている。
これは、どのような急性期病院でも週末になると人手が少なくなっており、検査等も動いていないものがあるということで説明されており、急性期でない病院ではさらにその傾向が大きくなると考えられる。病院は他の業種よりも夜間・週末にもWeekDayと変わらない業務を行おうと努力はしているが、完全に24時間365日完全な業務を行うのは不可能でありやむを得ないところがある。
今回の論文では、その週末効果は精神科領域ではほとんど検討されていないということに注目して、精神科領域での週末効果をみた論文である。
方法としては精神科領域の治療アウトカムとして自殺を使用している。入院、退院後、自殺企図、自殺既遂などいくつかの群で検討しているが、驚くことに、結果は週末のほうがどの群でも自殺行動が「少なかった」。
「少なかった」。。。他の医療分野と異なり、精神科では自殺をアウトカムとしてみた場合週末のほうがWeekDayよりアウトカムが良いということか、、、つまり医療の手が薄いほうがアウトカムが良い、、、
自殺既遂についてはincidence rate ratio (IRR) 0.52と週末のほうが半分近く少なかった。。。全体でも12-15%程度自殺行動が低いという結果で、週末の自殺関連行動は出現率がかなり低いという結果である。
うーむ。。。僕らがやっているのは無駄なのだろうか、、、どう解釈して良いのかわからない。。。週末のほうが家族などのサポートが多いとかそういう考察で良いのだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿