2017年6月20日火曜日

抗てんかん薬は中止できるか、学校の始業時間は遅い方がいい、自傷と他害、ADHD治療していると事故が少ない

抗てんかん薬の内服の終了について
Stopping epilepsy treatment in seizure remission: Good or bad or both?
てんかんは薬物療法でコントロール可能なことの多い疾患であるが、発作がコントロールされた後も長期に治療薬を内服する必要がある。発作がコントロールされた後の患者さんは症状がない状態で薬を飲み続けることになり、QOLに影響がある。いつか治療が終結できないかというのは患者・医者の願いであるが、一度発作が起こると数年間車の運転はできなくなるし、職場などで発作が起こってしまうかもしれないという恐怖もある。一応5年発作がなければ薬剤は中止を試みることができるとされている。しかし、脳波などを参考にするとはいえ、どの患者さんが薬をやめると再発し、どの患者さんが再発しないかを予測することは困難で、経験を積んだてんかん医も完全には予測できないギャンブル的なものとなる。ということで、長期に発作がコントロールされた後に薬をやめられるかというレヴュー論文。
結果は発作のない状態で薬をやめても長期のてんかんの進展(悪化)には影響しない。しかし、やめてから二年間では発作の再発リスクが2倍になる。発作が再発すると、抗てんかん薬を再開しても20%の患者さんはしばらく発作を経験する。若年ミオクロニーてんかんなど、再発リスクの高いてんかん症候群があり、そういったてんかん症候群では一度断薬を試みてうまく行かなければその後は抗てんかん薬の中止は勧められない。
とのことであり、今後としてはてんかん源性に効果のある薬剤が求められているという。
ま、そうだろうな、という感想。いつも薬をやめたいという患者さんにはそのギャンブル性を説明し、希望した場合に慎重に減量していっている。この辺はなかなか答えの出ない問題であり、治癒を目指すことのできる薬剤は真に求められている。


学校の始業時間は遅い方がいい
Later School Start Time Is Associated with Improved Sleep and Daytime Functioning in Adolescents
Later School Start Times Associated with Better Sleep and Academic Performance
一般に眠くないのに寝るのは難しく、眠気を我慢するほうが簡単だ。なので、睡眠相後退症候群のほうが睡眠相前進症候群より問題になりやすい。睡眠相後退症候群は一般に寝るべき時間(23時ごろ)に眠くならず1,2時頃に寝る習慣となる。また、一般に起きる時間(7時ごろ)に起きるのが難しく、ほっておくと10時頃に目覚めるため、目覚まし時計などで無理やり起きる。そうすると睡眠時間が短くなり、睡眠不足が溜まっていく。(前進症候群の場合、20時頃眠くなるが、ちょっと我慢して起きておけば問題ないし、早起きの分には社会的に問題にならない)
上の論文では高校の始業時間を8時から8時25分に変更したところ、平均の睡眠時間が29分伸び、日中の眠気が減って、カフェインの使用が減ったという。
下のJournal watchでは、33000人の中学生(eighth grade)を始業時間を earliest (7:20–7:30 a.m.), early (7:40–7:55 a.m.), and latest (8:00–8:10 a.m.).に分けて調査したところ、earliestの生徒たちはlatestに比べて31%も8時間睡眠が少なく、成績が有意に悪く、宿題を済ませる率が低かったという。
僕も朝は弱く、あんまり始業時間が早いと遅刻が多くなってしまう。通勤時間も関係するが、外科などあんまり朝の早い科で働くのは無理だなぁ、、、遅い始業のほうが成績も良いとのことなので、子供はあんまり早い始業時間の詰め込み型の学校には入れないようにしよう、、、

自傷と他害の関係
Association Between Deliberate Self-harm and Violent Criminality
http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2616168
精神科の外来では自傷を行う患者さんによく遭遇する。いわゆる自殺を目的としたものから、衝動的な自傷や、自傷自体が目的になっているものなど、実は自傷の内実は様々である。精神科的にも「自殺関連行動」としてまとめたり、「self-harm」として自殺と関係なく自傷のみを捉えようとする立場などがあったりと対する医師や研究の姿勢も様々である。
この研究は1997年から2013年までのスウェーデンでの研究。1982年から1998年に産まれた「すべてのスウェーデン人」!!1850252人を対象として1997年から2013年までフォローアップしたコホート研究。。。185万人、、、
3.0%にあたる55185人が自傷で医療ケアを受けたが、この人口は他の人口に比べて暴力的犯罪で有罪となるハザード比が4.9倍だった。特に女性がその傾向が高かったという。精神疾患によって調整してもハザード比は依然として1.8倍だったという。
確かに精神科では自傷を行う人が家では家族に暴力をふるっていたりということに気づかれることは多い。しかし、やはり自傷の種類にもよるのではないだろうか。衝動性の発露として自傷をしている人は他害もしやすいのは実感できるが、、、何とも言えない。

ADHDに対する治療薬の使用と自動車事故の関係
Association Between Medication Use for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and Risk of Motor Vehicle Crashes
http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2626505
ADHDの患者さんは症状として不注意がある。治療をすると不注意は軽減するが、交通事故との関係はどうなのだろうか、という研究。
2319450人のADHD患者のコホート研究では、治療薬を使用していると自動車での衝突事故が減少するという。減少率は男性で32%、女性で42%。アブストラクトにはADHDが健常人と比べてどれくらい事故率が高いかは書かれていないが、全員が治療を受けていた場合ADHD患者が起こしていた事故のうち最大22.1%が予防されていたであろうとされている。
そのうち、ADHDだと車の保険料が上がったり、治療を受けると保険料が下がったりするのだろうか。もしかしたらアメリカではすでにそうなっていたりするのだろうか。