2017年5月25日木曜日

孤独感と脳内のアミロイド沈着、リチウム内服とがんリスク、FDAの有害事象報告システム(FAERS)の解析でケタミンのうつ病への効果が示唆された、インターフェロン治療で発生する抑うつのリスク因子

Association of Higher Cortical Amyloid Burden With Loneliness in Cognitively Normal Older Adults
http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2575729
ハーバードでの研究。
認知機能が正常な高齢者にアミロイド蛋白の沈着を同定できるアミロイドPETであるPiB-PETを施行。皮質のアミロイドの沈着度合いと「孤独さ(孤独感)」との関係を、年齢、性別、アポリポプロテインEε4、社会経済的状態、うつ、不安および社会的ネットワーク調整した上で調べた。孤独感は3-item UCLA Loneliness Scale にて計量された。
結果はアミロイドの沈着度合いが高いほど孤独感が高いという結果であった。
結論では孤独さ(孤独感)は前アルツハイマー病状態においてアミロイド沈着の症状である可能性があると著者たちは考えている。
感想としては逆に孤独感が脳に悪影響を及ぼしてアミロイド沈着を高めている可能性はないのかと思うが、これは本文では議論されているのであろうか。


Use of lithium and cancer risk in patients with bipolar disorder: population-based cohort study
http://bjp.rcpsych.org/content/209/5/393
リチウムは双極性障害の治療に用いられ、「気分安定薬」と呼ばれる。ナシア・ガミーはリチウムの使用に習熟していないと気分障害治療医として失格だというようなことを述べており、他に双極性障害の治療に使用が可能な薬剤が出てきて入るとはいえ、現在もリチウムは双極性障害治療の主役である。
リチウムはGSK-3と呼ばれる細胞内シグナル伝達物質の活性を抑制する。このシグナル伝達物質はリン酸化されることでシグナル伝達が活性化するが、脳内と他の身体内では異なった情報の伝達をしている可能性がある。というか、細胞内のシグナル伝達物質なので、その細胞がどのような役割をしているのかにかかわらず、その細胞内では情報伝達をする物質として働く。このGSK-3は一部の癌において活性化しているといわれており、癌化のメカニズムの一部に関与している可能性がある。また、リチウムはこのGSK-3の活性を抑制することがわかっている。
この研究ではリチウム内服患者の癌化リスクを保険のデータベースから調べたもので、結果としてリチウム内服患者の癌化のハザード比は0.735と有意に低く、さらに内服量の多い患者ほど癌化リスクが低かった。
リチウムは明らかに双極性障害に効果のある薬剤で、普段から積極的に使用をしている薬剤ではある。ただ、時折意識障害や腎障害、尿崩症などの副作用にびっくりさせられることもある注意が必要な薬剤という側面もある。しかし、主の作用の気分安定作用のみではなく副産物として癌化リスクが低くなるのであれば、さらに処方理由は高まるわけであり、今後も注意しながら必要のある患者さんには積極的に勧めていきたいと思った。


FDAデータベースの解析でケタミン・ミノサイクリン・ジクロフェナク・ボトックス使用者のうつ病報告が少ないことが判明
FDAの有害事象報告システム(FAERS)の全データ800万件解析により、麻酔鎮痛剤ケタミンの使用者には「うつ病」の報告割合が有意に少ないことが判明した(Independent、Scientific Reports)。
また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)のジクロフェナク、抗生物質ミノサイクリン、抗シワ剤ボトックス(ボツリヌストキシン)といった薬剤でもケタミン同様にうつ病報告が少なく、抗うつ作用が示唆された。ミノサイクリンについては「精神症状」「妄想」「せん妄」の報告も少ないことも示されたという。
なお、ボトックスの抗うつ作用メカニズムは不明である。これらは因果関係を証明するものではないが、相関関係は有効性を示唆している。


Population scale data reveals the antidepressant effects of ketamine and other therapeutics approved for non-psychiatric indications
 FDAの有害事象報告システム 「FDA Adverse Event Reporting System(FAERS)」で報告された結果を解析。ketamineを使用している患者たちは、他の疼痛治療薬を使用している患者たちより抑うつや痛みの出現が少なかったという。どれくらい少なかったかというと、対数オッズ比で-0.67と-0.41。対数オッズ比について調べてみたが、この数字がどれくらい大きな値なのかわからない、、、有意ではあるようだが。
ケタミンは解離性麻酔薬として用いられるが、依存性や悪夢といった問題があり、使用が簡単な薬剤ではない。日本では近年、麻薬に指定された。
僕はケタミンの麻酔外使用や大麻の医療使用については慎重な立場である。もちろんベネフィットが完全に証明されれば使用を認めていくべきではあると考えるが、まだ時期尚早と考えている。今回の結果も面白い方向性からの情報ではあるが、もっと直接的・科学的解明が進んでからの使用を考えるべきだと思う。


Risk factors and clinical characteristics of the depressive state induced by pegylated interferon therapy in patients with hepatitis C virus infection: A prospective study
インターフェロン治療はC型肝炎の治療に用いられるが、頻度の高い副作用として抑うつがある。頻度が高いのみではなく重症度の高い患者も多いようで、インターフェロン治療をする患者は、治療前に抑うつ傾向がないか精神科医の診察をうけるのが一般的となっている。大学病院に勤めていたころはよくコンサルトを受けて何人もの患者さんに治療前評価を行っていたが、その後抑うつが発症したことはなく、どれくらいの頻度で抑うつが生じるか、どのような抑うつなのかわからないままだった。
今回の論文はインターフェロン治療を受ける患者さんを前向きにフォローしその後の抑うつの出現とそのリスク因子を評価している。69人のインターフェロン治療患者のうち18人(24.3%)が抑うつを発症した。
評価としては「Neuroticism–Extraversion–Openness Five-Factor Inventory」 「the List of Threatening Events Questionnaire」「Beck Depression Inventory (BDI)」を用いて、インターフェロン治療前、2-4週後、さらにその4週後ごとに行っている。
抑うつ発症のピークは治療開始2-8週後と20週以降の2つのピークがあった。リスク因子としては基底のBDIの点数の高さと「neuroticism」だったというが、どちらもORは1.5以下で高くはない。抑うつをきたした人たちでは通常の抑うつのパターンと比べて‘somatic symptoms'が高得点だったという。
24.3%が抑うつ発症というのはおもったより高い頻度だった。今後同様の仕事をする事があればもっと丁寧に患者さんをフォローすべきかもしれない。

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